誰かのからだの記憶を通して風景に触れる

2021.6.20

この日は前回のリサーチで松本さんと飯塚さんがシェアしてくれた風景の味わい方や視点を私のからだで体験しながら街を歩いてみました。

この日歩いた旧東海道の台町のあたりは、歌川広重の『東海道五十三次』や十返舎一九の『東海道中膝栗毛』にも登場する神奈川宿という宿場町だったそうです。今はマンションの立ち並ぶ静かな住宅地ですが、かつては神奈川湊を見下ろす景勝地でした。
飯塚さんが教えてくれた電車の「ガダンゴトン」の音の正体をからだで聞いた青木橋は、横浜駅を通る京浜東北線、上野東京ライン、湘南新宿ライン、横須賀線、横浜線、京急線など様々な路線の電車が走り抜けるのを一望できる場所です。広重が描いた神奈川宿の湊の風景は、ちょうど私の立っていた青木橋あたりから横浜駅西口方面に広がっていた海を見下ろし描かれたものだそうです。

私の見下ろしていた電車の風景や、からだを突き抜ける電車の音の中に、誰かがいつか聞いた波の音が重なり混ざり合っているような気がしました。
以前、風景の持つ記憶の層について書きましたが、どの場所にも風景そのものの持つ記憶だけでなく、かつてその風景に触れたたくさんの他者のからだの記憶が積み重なっていて、私のからだは知らない内に誰かのからだの記憶たちに重なり、それらを通して今の風景に触れているのだなと感じます。

この日の私のだいたいの軌跡↓

横浜駅西口近くのポストの隣に並んで立ち、西口の繁華街をすり抜けて旧東海道へ、かつて神奈川宿だった台町という住宅街を歩き、大綱金刀比羅神社で大きな天狗と猫に睨まれ、青木橋で色々な路線の走行音を聞きながら電車を見下ろし、飯塚さんと浅間下歩道橋で待ち合わせをして帰路

【今日のわたしのからだで触れた風景の味わい】

◎手で小さな形・ポーズを作り、風景の中にあるものと交信しながら歩く(by松本さん)

・道路の標識、ビルのオブジェ、ガードレール、ラバーポール、落ちているゴミや葉っぱ、植え込みの花、三角コーンなど、からだと目が合ったものたちに、ポンポンポンと手で小さなポーズやちょっとした動きを作り挨拶を交わすように歩く
・一人で歩いていても、街にたくさんの仲間が隠れているような密やかなよろこびがある

◎ポストの隣に並んで立つ(by松本さん)

・ポストの隣に並んで立ち、しばらくじっとしてみる
・ポストの目線から街を眺めてみる
通り過ぎる人、首都高を走る車、ビルの角、銀行の看板、落ちているタバコetc. 
・ポストの持つ静けさがからだに伝わってくるのを感じる
・ポストに話しかけるように右手を小さく動かしてみる

◎陸橋の上で立ち止まりからだで電車の音を聞く(青木橋)(by飯塚さん)

・陸橋の上で立ち止まり、様々な路線の電車の音を足のあいだから背骨を突き抜けるように通してみる
・京浜東北線、上野東京ライン、湘南新宿ライン、横須賀線、横浜線、京急線、様々な路線の電車の走行音の違い、ガダンゴトンの音の正体にからだを澄ましてみる



涌田