骨とひかり

第63回短歌研究新人賞 次席 作品

傾けば瞳に映る天井の生まれてはじめて見るような色

ハンガーを烏が盗みにくる春の窓のこちらの骨のしずけさ

夕闇にからだの粒はとけだして光らなくていい生き物になる

ちょっとずつ出るおしっこのあたたかく丸めたティッシュに名前をつける

にんじんを刻むからだの空洞にポケモンカードを盗まれた夏

サランラップで包む白飯つるつるの死が胃袋をゆっくりつぶす

生きているからには死ななきゃならなくて受話器のどこから流れるカノン

夜に触れ ひびわれてゆく背中からはなびらこぼれ、こぼれつづける

鳴り止んだことで鳴ってたことを知るなんの音だかわからない音

カーテンの向こうに夜はふくらんでどこまで伸びてゆくあばら骨

今 一番遠くに見えるものは雲、近くに見える鼻の先っぽ

鼻と膝がくっつく時の香ばしくひとりで踊る白いあかるさ

燃えるほど電気のスイッチ見つめてた  しんだらなにをしようと思う

死ぬことを忘れつづけて一日に何度も焼けるチーズトースト

肌と骨のすきまを浸す花曇り 唐突に止む鳩の鳴き声

花弁が肺に積もってゆく午後の団地の壁に泳ぐマンボウ

春霞 どこへもゆけぬ心臓がサランラップにつつまれてゆく

空っぽの浴槽に立つ太ももの血が巡ってることにつかれた

生きているものは応えて応えてよ マルちゃん正麺横たわる月

冷蔵庫と踊るてのひらやわらかく、あなたの側面はあたたかかった

なんかもうぜんぶどうでもよくなっておなかの中でする平泳ぎ

素裸でユニットバスごとこの星に殴られている土曜日の夜

ひとつぶのへそを宇宙に浮かべてる さみしいなんてだれが言ったの

中指の骨が天井つきぬけてまひるの星をかっさらってく

なにに泣きなにに怒ればいいですか 背中を空の青で洗った

雨上がりの空気に泳ぐ足裏は突然なにかを蹴りたくなった

バスタオルの影 止まりつつふるえてる 背骨の芯にふる雨の音

手をふれば影も手をふる今までのぜんぶの初夏と一緒にあるく

耳の裏からひかりの粒にとけてゆく わたしは季節のひとつになって

あばら骨でひかりを編んでまたほどく四角い部屋はふくらんでゆく